オールドパーの発祥と歴史
19世紀のロンドン、グリンリース兄弟の父親は、スコットランドの各地にある蒸溜所と提携してウイスキーを販売する業者として生計を立てていました。
そして1871年にグリンリース兄弟が父親の仕事を継ぐと決めたことをきっかけとして、ウイスキーのブレンディングを行う会社である「グリーンリースブラザーズ社」が設立されました。
これが、オールドパーの歴史の始まりです。
会社を設立したグリンリース兄弟は、蒸留所によって違う味わいを持つウイスキーをブレンドすることで、これまでにないブレンデッドウイスキーを作ろうと決意します。
どうせ作るなら、長く後世にまで飲み継がれるウイスキーを作ろうと、来る日も来る日も試行錯誤を繰り返しました。
スコッチウイスキーはそれぞれ独特の強い個性を持っているため、特徴を生かしつつバランスを取るブレンドという作業はとても難しく根気のいる仕事です。
そして、ついに完成したウイスキーに彼らが付けた名称が、「オールドパー」だったのです。
英語圏でよく使われる「オールド」という呼称は、日本で言う「~じいさん」に近い親しみを込めたニュアンスを持ちます。
それは例えば、「こぶとりじいさん」や「はなさかじいさん」のような意味合いです。
この彼らが自信作であるウイスキーに冠したオールドパー、つまり「パーじいさん」という名称は、実在した人物から取られています。
1483年から1635年にかけて、イングランド史上最長寿である152歳まで生きたと言われているトーマス・パーという農夫がいました。
彼の長寿はイングランド全土で話題となり、親しみを込めて「オールドパー」と呼ばれていました。
グリンリース兄弟は、トーマス・パーの長寿はウイスキーの熟成に通じ、また長寿による彼の叡智はウイスキーのブレンド技術に通じると考えました。
もちろん、彼らの「長く後世にまで飲み継がれてほしい」という思いも、152歳まで生きたとされるトーマス・パーになぞらえるように、オールドパーに込められたのです。
かつてのオールドパーのラベルには、彼の生没年である「1483年から1635年」の表記と、「10代に渡るイングランド王の時代を生きた」という表記がどちらもありました。
そしてもうひとつ、ラベルにはトーマス・パーの肖像画が今でも描かれています。
この肖像画は、トーマス・パーが亡くなった時のイングランド国王チャールズ1世が、彼の死を嘆いて描かせたものとして知られていますが、この肖像画の作者がかのピーテル・パウル・ルーベンスです。
ルーベンスは17世紀のバロック様式を代表する画家ですが、カトリック教徒でもありました。
日本ではアントワープという呼び名で知られているアントウェルペンが故郷ですが、ルーベンスは両親が迫害から逃れていた先であるドイツのジーゲンで生まれ、後にイタリアに渡りました。
イタリアの芸術家ギルドに所属したルーベンスはやがて教会の祭壇画を描くようになり、多くの作品を残すことになりますが、彼の名が日本に広まったのはあるアニメの影響でした。
日本ではおそらく知らない人のいない「フランダースの犬」、この話はルーベンスの故郷であるアントウェルペンを舞台としています。
主人公のネロがいつもアントウェルペン大聖堂で祈りを捧げていたマリア様の絵は、実は
ルーベンスが描いた「聖母被昇天」のマリア様でした。
そして、ネロがずっと見ることを切望して、死の間際に一度だけ見ることができた2枚の絵、「キリスト昇架」、そして「キリスト降架」もルーベンスが描いたものなのです。
オールドパーのラベルにはこのようなサイドストーリーがあることを、是非憶えておいてほしいと思います。
グリンリース兄弟が興したグリーンリースブラザーズ社は、やがてアレクサンダー・マクドナルド社と合併することで、19世紀末にマクドナルド・グリーンリース社となりました。
その後、1925年にディスティラーズ・カンパニー・リミテッド社の傘下となり、現在はイギリスの酒造メーカーであるディアジオ社の傘下に入っています。
マクドナルド・グリーンリース社が製造を受け持ち、ディアジオ社が販売するという形は今でも続いているのです。
オールドパーの製造方法と特徴
オールドパーを代表とするブレンデッドウイスキーは、複数のウイスキーをブレンドすることによって作られています。
一般的にブレンデッドウイスキーという場合は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたものを指しますが、グレーンウイスキーを使わずにモルトウイスキーだけをブレンドしたものは、ブレンデッドモルトウイスキーと呼ばれます。
オールドパーのラインナップの中では、例えば「オールドパー クラシック 18年」がこのブレンデッドモルトウイスキーになります。
グレーンウイスキーをブレンドするとできあがりが柔らかくなりますが、モルトウイスキーだけでブレンドすると、個性が強くぶつかり合うためにブレンド自体が非常に難しくなってしまうことがほとんどです。
ブレンデッドモルトウイスキーはかつてはヴァテッドウイスキーと呼ばれていましたが、2009年にスコッチウイスキー協会が定めたスコッチ・ウイスキー規則により、ブレンデッドモルトウイスキーという名称になりました。
ブレンデッドウイスキーはただ複数のウイスキーをブレンドすればよいわけではなく、どのようなウイスキーを作りたいのか、どのような味に仕上げたいのかによって、ブレンドするウイスキーを選ばなくてはなりません。
このときに一番核とするモルトウイスキーを、キーモルトと呼びます。
キーモルトが変われば当然できあがったブレンデッドウイスキーの味も変わってしまいますので、どのモルトウイスキーをキーモルトとするかは大事な要素になります。
スコッチウイスキー協会が定めた規定を守って作られたウイスキーを総称してスコッチウイスキーと呼んでいますが、生産地はハイランド、スペイサイド、ローランド、キャンベルタウン、アイランズ、アイラの6つに分類されています。
飲み比べをするとはっきりわかるほど、全く違う個性を持ったウイスキーが、この6つの生産地で作られているのです。
オールドパーは、なめらかで水質のよいスペイサイドやピートの香りが強く同得な個性を持つアイラ、そして樽熟成されたキーモルトであるクラガンモアの風味など、各蒸留所の持つ強い個性を喧嘩させることなく、見事に調和させることで複雑な味わいを作り出しています。
まさに、スコットランドの風土だけが作りえたスコッチウイスキーの、最高のブレンドがオールドパーなのです。
オールドパーは、スペイサイドのモルトウイスキーであるクラガンモアとグレンダランをキーモルトとしていますが、クラガンモアの方が比率は上です。
もちろん他のモルトウイスキーもブレンドされていますが、絶妙な配合からバランスよく作られているところが、オールドパーの人気につながっているのです。
2019年の11月にブレンドをリニューアルしたのは、オールドパーのマスターブレンダー、クレイグ・ワレス氏ですが、彼曰く、「オールドパー史上、最高のバランスを実現できた」という作品ですので、相当な自信作であることが伺えます。
オールドパーのラインナップ
オールドパー シルバー
2015年に発売された、日本限定の商品です。
シルバーの名称を持ってはいますが、スタンダードなオールドパーとして知られている1本で、スペイサイドの良さである果実のようなフルーティーさ、カスタードやバニラのような甘みに加え、スパイシー感と後に残る軽いスモーキーな余韻が特徴です。
冷却濾過することで雑味を無くし、ピートの香りも抑え気味にしているため、口当たり良く仕上がっています。
[itemlink post_id="1177"]
オールドパー 12年
オールドパーシルバーのひとつ上のランクとされ、世界で最も愛されているオールドパーです。
12年以上熟成させた原酒を40種類以上ブレンドしているブレンデッドモルトウイスキーであるにも関わらず、水割りにしても崩れないというバランスのよさで、和食にもよく合うウイスキーです。
長期間熟成による豊かな味わいと、多くの原酒をブレンドしたことによる複雑で奥深い香り、そして柔らかい味わいと甘い香りが通り過ぎた後には、かすかにスモーキーな余韻が心地よく残ります。
[itemlink post_id="3452"]オールドパー クラシック 18年
18年以上熟成させた9種類のモルトウイスキーの貴重な原酒だけでブレンドされた、贅沢なブレンデッドモルトウイスキーです。
バニラやベリー、レーズンなどの複雑な甘い香りと、ピートの枯れた香りやスパイスの香りもあり、滑らかな口当たりでありながらドライで、すっきりと熟成した深みと長い余韻が楽しめます。
他のラインナップよりは高めの価格ですが、既に終売している商品のため、見つけたら是非購入したい1本でもあります。
購入できたら、ストレートかオンザロックでゆっくりと時間をかけて楽しみながら味わいたいウイスキーです。
[itemlink post_id="3453"]オールドパー 18年
オールドパークラシック18年がリニューアルされ、まろやかでフルーティーな甘みが増したウイスキーです。
リニューアル前のクラシックはモルトウイスキーだけのブレンデッドモルトウイスキーでしたが、新しい18年はグレーンウイスキーもブレンドしています。
グレーンウイスキーをブレンドしたことで飲みやすいウイスキーにはなりましたが、クラシックの持つ重みが多少薄れているのが特徴です。
クラシックはストレートやオンザロックが適していますが、リニューアルされた18年は多少濃い水割りにして食中酒としても楽しめるウイスキーです。
[itemlink post_id="3454"]オールドパー スーペリア
モルトの熟成年数にこだわらずに、マスターブレンダーが熟成のピークと判断したモルト原酒のみをブレンドしているため、名前に年数をつけず、上質もしくは高級という意味であるスーペリアと名付けたウイスキーです。
まるで完熟したメロンのように甘く深い香りと、スパイシーさ、スモーキーさも兼ね備えた複雑で奥の深い味わいに仕上がっています。
華やかで長く続く余韻が、熟練したマスターブレンダーの腕がいかに最高な技術を持つかを教えてくれます。
[itemlink post_id="3455"]オールドパーの楽しみ方
ブレンデッドウイスキーのほとんどは、複数のモルトウイスキーの突出した個性をバランスよくまとめるためにブレンドされています。
言い方を変えると、飲みやすくするのがブレンデッドウイスキーの目的なのですが、モルトウイスキーだけのブレンドで飲みやすくするというのは至難の業です。
その至難の技を具現化したのが、オールドパークラシックです。
シルバーや12年であれば水割りやソーダ割りがお勧めですが、クラシック18年であれば、まずはブレンデッドモルトウイスキーとして、そのものを味わってもらいたいものです。
水割りにしたらおいしくないということではなく、クラシックにはクラシックに合う味わい方があるということです。
だからといって、ウイスキー初心者にいきなりストレートからというのは無理があります。
飲みやすい飲み方から入って、ウイスキーはおいしいものだということをまず知ってもらうことが先決ですので、クラシック18年をいきなり勧めるのは避けるべきですし、飲む側も、最初の1杯をクラシック18年にするべきではないのです。
ある程度飲みなれた方ならいきなりストレートで味わうのもいいですし、オンザロックでゆっくりと味の変化を楽しむのもひとつの飲み方です。
せっかく見事にブレンドされたウイスキーを飲むのですから、例えばこだわったつまみを用意してこだわった飲み方をすることもできます。
もしお金に余裕ができたら、シルバーと12年、そしてクラシック18年をそれぞれ水割り、オンザロック、ストレートと飲み比べてみるのもウイスキーの醍醐味です。
ウイスキーだけに限ったことではありませんが、「こう飲まなくてはいけない」という決まりはありません。
自分はこうやって飲みたい、こうやって飲むのが好きという飲み方があるのなら、もちろんそれでいいのです。
まとめ
ウイスキー初心者の方にいきなりモルトウイスキーを勧めたら、もしかしたらウイスキー自体を嫌いになってしまう可能性があります。
一般的な話ですが、ウイスキーは基本ボトル売りですので、よほど好きな人でない限りは飲んだことのないウイスキーを買うのはお勧めしません。
オールドパーのシルバーや12年を既に飲んでいて、今度はクラシックを飲んでみたいというのなら話は別ですが、ウイスキーは嗜好品ですので、必ず好き嫌いがあります。
なので、できれば最初の1杯はバーで注文することをお勧めします。
ワンショットであれば味が好みでなくてもその1杯で済みますし、気に入ればボトルで購入すればよいのです。
気の利いたバーテンダーであれば、飲み比べと称して5mlとか10ml、そっと味見をさせてくれることもあります。
シルバーや12年を飲まずに、いきなりクラシックから飲んでしまうと、クラシックの良さが充分にわからない可能性もあります。
自分の舌が、自分にはこのウイスキーだという1本を見つけるまでは、勉強だと思って階段をひとつひとつ上るように飲んでいくのもまた楽しみなのです。
余談ですが、バーテンダーとして働いていた頃、カウンターでオールドパーのオーダーがあると必ず、「フランダースの犬はご存知ですか?」と聞いていたものです。
その時の蘊蓄が、どこかで何かの役に立っていたら本望です。
よい1杯を。