突然ですが、バルヴェニーというスコッチウイスキーを飲んだことがありますか?
スペイサイドの蒸留所群の中にあり、独特の蒸留釜を使い、伝統的なフロアモルティングを今でも行っている蒸留所、そこで作られているウイスキーがバルヴェニーです。
その中でも12年ダブルウッドは、特に樽にこだわっているバルヴェニーが世に送り出した円熟味を持つウイスキーです。
今夜は、バルヴェニー12年ダブルウッドを傾けてみることにしましょう。
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バルヴェニーの発祥と歴史
1892年、バルヴェニー蒸留所は1887年に創業したグレンフィディック蒸溜所の第2蒸溜所として、スペイサイドのダフタウンで創業しました。
グレンフィディック蒸溜所の創始者であり、同時にバルヴェニー蒸留所の創始者でもあるウィリアム・グラントは、近隣に建つバルヴェニー城から名前を取り、バルヴェニー蒸留所と名付けたのです。
バルヴェニーはゲール語で「山の麓の集落」という意味ですが、バルヴェニー城は13世紀に作られ長らく放置されていましたが、今では修復も進んでおり見学もできるようになっています。
この地域はスコットランドの中でもスコッチウイスキーで有名なスペイサイド地域と呼ばれ、東京都と同じくらいの面積の土地に、スコットランドに存在する100以上の蒸留所の内の約半数である54もの蒸留所が集中しています。
地理的にはハイランド地方の中心に位置していますが、スペイ川流域の蒸留所密集地域はスコッチウイスキーの一大産地として、特にスペイサイド地域と呼ばれています。
この2つの蒸留所創業以降も1966年にレディーバーン、1990年にキニンヴィ、2007年にアイルサベイと蒸留所を増やしていくのですが、残念ながらレディーバーンは閉鎖、キニンヴィとアイルサベイはほぼ入手できない状態です。
スコッチウイスキーの名前にはよく「グレン」という言葉がついていますが、これはスコットランドで使われているゲール語で、谷や峡谷のことを意味します。
ウイスキー作りには澄んだ水が必要なため、水を確保するために谷を流れる川や水源地に近いところに蒸留所が作られます。
スコットランドは元々山や谷の多い地形なのですが、グレンフィディックは「鹿の谷」、「グレンリベット」は「静かな谷」というゲール語に由来しているのです。
ゲール語は元々スコットランドやアイルランドで使われている古い言語ですが、アメリカやカナダへの移民によって広められ、ゲール語由来の地名も存在しています。
スコットランドでもゲール語が無くならないようにと学校を増やすなどの対応を行っており、スコッチウイスキーの中だけでなくゲール語は受け継がれているのです。
余談ですが、ドイツにあるヴァルトホルン蒸溜所が「グレン・ブーヘンバッハ」という名のシングルモルトウイスキーを売り出した際に、スコッチウイスキー協会が「グレン」という名称の使用停止を求めて訴訟を起こしたことがあります。
「グレン」はスコッチウイスキー特有の名称だというのが訴訟の理由でしたが、判決結果は「グレン」の使用を引き続き許可するという内容でした。
スコッチウイスキー協会にとっては残念な結果でしたが、それほどまでに「グレン」という呼称にこだわっているというエピソードです。
バルヴェニーの製造方法と特徴
バルヴェニー蒸留所は、自社で麦芽乾燥やピートの香りづけを行っています。
蒸留釜はボール型のポットスチルで、初留釜と再留釜を合わせて8基あり、ネック部分にバルヴェニーボールと呼ばれるこぶが付いている独特の形状をしています。
このこぶがあるおかげで香り成分をゆっくりと抽出し、豊かな味のウイスキーに仕上げることができます。
そのため現在でも釜職人を専属で抱え、技術を守り続けているのです。
グレンフィディック蒸留所で使用しているのは中古の釜ですので、このこだわりは大きな違いです。
・伝統のフロアモルティング
バルヴェニー蒸留所では、手間のかかるフロアモルティングという製法をスペイサイドで唯一、今でも行っています。
原料である大麦を発芽させる工程をモルティングと呼びますが、このモルティングをフロア、つまり床で行うためにこの名前が付けられました。
具体的な工程は、次の通りです。
まず大麦を仕込み水に数日浸して、水をしっかりと含ませます。
次に水を含んだ状態の大麦をフロア一面に広げて、空気に触れさせます。
水に濡れた大麦が空気に触れることで発芽するため、均一に発芽できるように職人が木製のシャベルを使って拡販します。
数日後、発芽した大麦麦芽は、キルンと呼ばれる麦芽乾燥棟で乾燥します。
大量の大麦をシャベルで拡販するモルティングはかなりの重労働ですので、他の蒸留所ではほとんど行われなくなりましたが、バルヴェニー蒸留所はこの伝統製法にこだわり、今でも地道な作業が行われています。
ちなみにフロアモルティングを行う熟練の労働者をモルトマンと呼び、フロアモルティングによって痛めてしまった肩、もしくは肩こりのことをモンキーショルダーと呼んでいます。
重労働を引き受けてくれているモルトマンに敬意をこめたこの名は、バルヴェニー蒸留所を所有しているウィリアム・グラント&サンズ社のトリプルブレンデッドモルトウイスキーに付けられることになります。
それが、グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィのモルトウイスキーだけでブレンドされた貴重な「モンキーショルダー」です。
こうした伝統製法も、今では生産の近代化によって機械化されたモダンモルティングに取って代わられ、ほとんどの蒸留所では行われなくなっているのです。
・ダブルウッド
バルヴェニー蒸留所は、多くの熟成樽を使用しています。
他の蒸留所でよく使われているのがバーボン樽やシェリー樽ですが、バルヴェニー蒸留所ではポートワイン樽やラム樽も使用しています。
樽は樽専門の職人によって熟成庫と呼ばれる低温の倉庫でゆっくり熟成されるのですが、こうした多様な熟成樽を組み合わせて熟成させることで、多様なウイスキーを作ることができるのです。
バルヴェニー12年ダブルウッドはその名の通り、2種類の樽を使って熟成したウイスキーです。
まずバーボン樽で熟成させることでコクのある柔らかい味わいを引き出し、さらにシェリー樽に詰めかえ熟成させることでフルーティーで奥深い味わいを加えて円熟したウイスキーに仕上げているのです。
実はバルヴェニー蒸留所で使われている大麦と酵母は、グレンフィディック蒸留所と同じものです。
グレンフィディックはロビー・デューの泉、バルヴェニーはコンヴァル丘陵の泉を仕込み水にしているという違いや、その他の蒸留工程や製麦作業、そして樽の使い方の違いが味の違いになっているのです。
バルヴェニーの種類
バルヴェニー 12年 ダブルウッド
[itemlink post_id="4275"]バーボン樽で熟成させた原酒をさらにシェリー樽に移して、トータルで12年熟成させたウイスキーです。
凝った作りながら深みのある味わいを持つ、バルヴェニーのスタンダードと言っていい1本です。
バーボン樽による洋梨やメロンといったフルーティーな爽やかさと、シェリー樽による芳醇な甘味が調和よく共存し、風味とコクのある余韻を味わうことができます。
しっかりとした飲み心地が味わえる、上質に仕上がった甘く繊細な熟成香が贅沢なウイスキーです。
【バルヴェニー 12年 トリプルカスク】
[itemlink post_id="1195"]バーボン樽とシェリー樽、さらにピート感のあるトラディショナルカスクの、3つの樽の組み合わせで12年熟成させて作った1本です。
バーボン樽の持つ芳醇な甘い香りと豊かな甘味、シェリー樽の持つバニラやプラムのようなフルーティーで甘い風味に、トラディショナルカスクの深みのある味わいが加わった、モルト原酒を堪能できる仕上がりになっています。
【バルヴェニー 14年 カリビアンカスク】
[itemlink post_id="4276"]原酒をバーボン樽で熟成させ、その後でダークラムの樽で追加熟成するのがカリビアンカスクです。
深いコクと共に、菓子作りにも使われるラム酒独特のラムレーズンやカラメル、トロピカルフルーツやマンゴーといったまろやかな風味が楽しめる1本です。
かといって甘すぎず、ビターな風味やスパイシーな風味も感じられ、口当たりはスムーズで芳醇な香りとのバランスがとてもよく取れています。
【バルヴェニー 16年 トリプルカスク】
2種類のバーボン樽とシェリー樽の3つの樽でそれぞれ熟成させた原酒を、バルヴェニーのモルトマスターであるスチュワート氏がブレンドした1本です。
同様にトリプルカスクである12年よりも熟成期間が長い分、まろやかな舌触りと深みを増したコクが楽しめます。
しかもブレンド後に、マリーイングタンクという大きな木製の桶でしばらく寝かせることで味をなじませるという徹底ぶり。
華やかでフルーティーなシェリー由来の香り、オレンジやバニラ、アーモンドといったナッツ類の味わいなど、それぞれのモルトの持ち味を活かしつつ、旨味をバランスよく引き出すことに成功しているため、ワンランク上の円熟感を持った、ある意味完成度の高い傑作です。
【バルヴェニー17年 ダブルウッド】
[itemlink post_id="4277"]使用されている樽は12年ものと同じですが、熟成が長い分、円熟した甘さの中にスパイシーさが感じられ、より深い味わいのある1本です。
12年より樽の香りが強く、ハチミツやカカオ、アーモンドといった香りに、いかにもバルヴェニーといったバニラやアーモンド、オレンジピールの味や香ばしさが感じられます。
甘みと香ばしさが共存した、落ち着いた仕上がりのウイスキーです。
【バルヴェニー 21年 ポートウッド】
[itemlink post_id="1201"]21年以上に渡りシェリー樽で熟成させた原酒をまずブレンドし、そこから30年物のポートワインの樽に移してさらに約1年熟成させた1本です。
シェリー樽による豊かな甘味に加え、タンニンのわずかな渋味が絶妙なバランスで、蜂蜜のような甘みや酸味、独特のピート香が共存し、味わいの深い仕上がりになっています。
さらっとした口当たりですが、シェリー樽だけとは思えない、複雑なのにバランスよく完成されたウイスキーです。
【バルヴェニー 25年 トリプルカスク】
[itemlink post_id="4278"]2種類のバーボン樽とシェリー樽の3つの樽で16年物よりも長く熟成させたことで、なめらかでクリーミーな口当たりと円熟感を持つ、贅沢な1本です。
アプリコットや洋梨のフルーティーさに、ハチミツなどの濃厚で甘い香り、香ばしいモルトの風味がバランスよく配置され、リッチな上に口当たりの良い仕上がりは、まさに25年熟成の結果です。
フルーティーな甘い余韻が長く堪能できる、贅沢なウイスキーです。
バルヴェニーのおすすめの飲み方
バルヴェニーの特徴は、フルーティーである甘さと、その豊かな香りです。
シングルモルトウイスキーは、原料は同じ麦なのに蒸留所によってその味わいが異なりますが、バルヴェニーは特に伝統的な製法を用いているために、麦の持つ本来の香りと味わいを強く感じることができます。
とはいうものの、伝統製法であるフロアモルティングであればもっとあってもおかしくない強いピート感はそれほどなく、シェリーの甘い香りの方が感じられます。
これは、バランスよくモルトがブレンドされている結果と言えます。
せっかくバランスよく完成されているので、できれば薄めずに、そのままストレートで味わう方が、バルヴェニーが持つ本来の味を楽しむことができます。
ウイスキーは醸造酒と違って常温で保存できるため、温度管理にはあまりうるさくありません。
特にバルヴェニーは樽による変化を追求し、その良さを引き出すことで作られているウイスキーですので、樽によって生み出された香りや味を存分に楽しむことができます。
ウイスキーに限った話ではありませんが、人は味覚と嗅覚の両方を使って味を感じるため、例えば同じ料理であっても温度の差で感じ方や捉え方が変わります。
特に香り成分は温度による広がりの差が大きいため、低い温度よりは高めの温度の方がより強く香りを捉えられるのです。
個人的な経験ですが、私も最初からウイスキーをストレートで飲んでいたわけではありません。
水割りやソーダ割りばかり飲んでいた頃もあれば、なんとなくウイスキーが美味しく思えてきてオンザロックを試すようになり、いつの間にか、ストレートで味わうことができるようになっていました。
ウイスキーは嗜好品です。
ストレートはきつくて、喉が焼けるような感じがするから苦手だという人もいます。
飲みづらいのであれば、グラスを冷やして、自分好みの濃さでオンザロックで飲むのもお勧めです。
オンザロックのよさは、氷が次第に溶けていくと共に口当たりが優しくなるため、自分で濃さの調節ができるところにあります。
それに伴う温度変化によって、バルヴェニーの持つコクや立ち上る香りを感じることができますので、ゆっくりと時間をかけて味わうのも、また一献です。
さいごに
スペイサイドのシングルモルトでありながら、伝統製法を継承し、ダブルウッドやトリプルカスクといった樽熟成を突き詰めているのがバルヴェニーです。
もしまだバルヴェニーを体験したことがないのであれば、バーに出かけて行って、飲み比べをしてみたいとバーテンダーに相談してみましょう。
きっと、グレンフィディックなど、スペイサイドを代表するシングルモルトとの飲み比べを提案してくれるはずです。
今夜もよい1杯を。