はじめに:そもそも「ウイスキー初心者」とは?
みなさんは「ウイスキー初心者」というと、どんな人を想像しますか?
「初心者」を広辞苑で検索すると、「初めて習う人。習いはじめの人。習ったばかりの人。」という結果が表示されます。
これに倣うなら、「ウイスキーを初めて飲む人。ウイスキーを飲み始めの人。ウイスキーを飲んだばかりの人。」のことを、ウイスキー初心者と言うことになります。
では、ウイスキーを初めて飲むきっかけとは何でしょうか?
学生ならコンパ、会社なら飲み会といったシチュエーションの中で、人数が多いからボトルの方が割安だからといった理由でウイスキーを飲むことはあるとしても、実は自分の意思で初めてウイスキーを飲む人は少ないように思うのです。
ウイスキーに限らず、特に嗜好品は試してみないことには味が分かりません。
どんなきっかけだったにせよ、飲んでみて初めて「美味しい」と思えたのだとしたら、それは自分の嗜好に合う酒だということになるのです。
酒の飲み方は千差万別ですので、どんな酒をどんな飲み方をしようが、人にさえ迷惑をかけなければ、それはその人の自由です。
ですがもしあなたが「美味しいウイスキーを飲んでみたい」とか、「ウイスキーを飲めるようになりたい」と少しでも思うのであれば、あなたはもうウイスキーの道に足を踏み入れたと同じです。
それが例え、「かっこよく飲んでみたい」といった動機であったとしてもです。
そして、その道に足を踏み入れたばかりの人のことを、私は「ウイスキー初心者」と呼ぶことにしています。
初心者が知っておくべき「ウイスキー」の話
自動車教習所に通うわけではありませんので、「飲むより先に知識をつけるべき」などという決まりはありません。
飲んでみなければ分からないことは、実際にたくさんあるからです。
しかし、自分が何を飲んでいるのかくらいは知っておいた方が安心ですし、ウイスキーには多くの逸話がありますので、実際に飲みながら話を聞いたり語ったりするという楽しみ方もできるのです。
また、いつかあなたがウイスキー初心者に対して今度は教える側になる日のためにも、ぜひ基礎知識は知っておきましょう。
ウイスキーの定義
ウイスキーは、大麦やライ麦、トウモロコシといった穀物を麦芽の持つ酵素の力で糖化し、さらにアルコール発酵させたものを蒸留したもののことを言います。
ですので、「ウイスキーって何?」と聞かれたらこう答えればいいのですが、これはあくまで「定義」であって、これだけではウイスキーの魅力は全く相手には理解してもらえません。
いったい他のアルコール類と何が違うのか、なぜ世界中で飲まれているのか、なぜこんなに種類があるのか、なぜ価格に違いがあるのか、こうした疑問をひとつひとつ解き明かして自分の知識としていくことが大事です。
ウイスキーの分類
ウイスキーの分類方法は、大きく2つあります。
ひとつは材料による分類で、大麦麦芽だけを原料とするモルトウイスキー、トウモロコシやライ麦などを主原料とするグレーンウイスキー、この2種類を混ぜたブレンデッドウイスキーといった分類です。
材料が味を左右するのは当たり前ですが、同じ大麦麦芽で造っているにも関わらず、味に差が生まれるのがウイスキーの面白いところです。
もうひとつは産地による分類で、よく世界の五大ウイスキーと呼ばれている分類です。
スコットランドで造られるスコッチウイスキー、アイルランドで造られるアイリッシュウイスキー、アメリカで造られるアメリカンウイスキー、カナダで造られるカナディアンウイスキー、そして日本で造られるジャパニーズウイスキーの5つがこれに当たります。
ちなみに、よく知られているバーボンウイスキーは、アメリカンウイスキーに含まれます。
もちろんこれ以外の国でもウイスキーは造られていますが、それぞれに特徴があり人気が高いのはこの5つです。
ウイスキーのこぼれ話
現在私たちが飲んでいるウイスキーのほとんどは、長い歴史を持つ蒸留所で造られたものです。
その蒸留所がどのような時代を乗り越えてきたのか、そのブランドがどうやって誕生したのか、その名前は何からつけられたのか、そのラベルにはどんな意味が隠されているのか、そこには多くの逸話があるのです。
例えば2014年にNHK朝のテレビ小説で放送された「マッサン」は、ニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝とその妻がモデルになっていました。
1年分のドラマを作ることができるほど、ウイスキー造りというのは大変なことであり、特に今のような技術もなかった時代にどれだけの苦労と工夫があったかを知ることができます。
ちなみに私がバーテンダーだった時に一番好きだった逸話は、オールドパーのボトルに貼られた小さな肖像画を書いたのは、フランダースの犬で主人公ネロが死ぬ間際にようやく見ることができた大聖堂の絵画の作者であるルーベンスである、という話です。
こうしたこぼれ話がいくつもあるのも、ウイスキーの楽しみの一つです。
初心者がウイスキーを選ぶ際のポイント
ウイスキーの蘊蓄はある程度調べさえすれば分かることですが、実際に自分がどんなウイスキーを選んだらいいのかは、とても難しい問題です。
なぜならウイスキーは嗜好品であり、味の好みは千差万別だからです。ですので、ここでは判断基準にできるいくつかのポイントを紹介します。
国産か、外国産か
あなたがもし日本人であれば、最初は国産のウイスキーを飲んでみることをおすすめします。
ジャパニーズウイスキーは全体的に口当たりがよく、飲みやすいというのが海外での評価ですが、これは繊細な日本食にも合うように造られていることが一番大きな理由です。
もちろん水の性質も大きな要素ですが、その国の食と酒は非常に関連性が高く、フランス料理にはワイン、韓国料理にはマッコリ、中華料理には紹興酒、和食には日本酒といった組み合わせが美味しいのも、風土や産地、食生活が大きく影響しているからです。
食事と一緒ではなくウイスキーだけを楽しむこともあるとは思いますが、食中も食後も楽しむには食事にあったウイスキーを選ぶことです。
その意味でも、最初は国産のウイスキーがおすすめです。
飲みやすいか
同じ国産のウイスキーであっても、会社も違えば水も蒸留所も違いますし、ブレンドも違います。当然味に差がありますので、より飲みやすいウイスキーを選ぶことをおすすめします。
しかし困ったことに、飲みやすいかどうかは2つ以上を比較しなければ分かりません。
しかも別の日に飲んだウイスキーを比較するのはとても難しいため、ちゃんと比較するのであれば、目の前に2種類のウイスキーを用意する必要があります。
これは、初心者のすることではありません。
ウイスキーの味の感じ方は、その日の体調や気分にも、食べ物にも左右されます。
ですので、方法はたった一つ、その日飲んだウイスキーを飲みやすいと感じたら、「これは飲みやすい」と記憶することです。
もし「なんとなく飲みにくい」と感じたら、別の日にまた飲んでみることです。
その時に「飲みやすい」と思ったとしたら体調や気分のせいかもしれませんし、もしまた「飲みにくい」と感じたのだったら、別のウイスキーで試してみましょう。
大事なのは、ウイスキーを「美味しい」と思って飲むことなのですから。
手に入れやすいか
飲みたいときに手元にウイスキーがあるという状態は、とても幸せな状態です。
しかし手元にウイスキーが常時あるという状態を作るには、ある程度コンスタントに入手できなければならないため、手に入りやすいウイスキーを見つける必要があります。
幸いにもウイスキーは種類さえ選ばなければ酒屋、コンビニ、デパート、ディスカウントストアなどで購入できますので、全く手に入らないということはありません。
もし毎日飲みたいのであれば、収入と相談して妥協できる価格のウイスキーの中から自分の舌に合うものを探すことです。
特別な日に飲みたい1本を持っていることも素敵なことですが、特別な日ではない日常の中にウイスキーが何気なくあるということも素敵なことなのです。
初心者におすすめのウイスキーの飲み方
まだウイスキーが飲める年齢に達していなかった頃、「ウイスキーはバーのカウンターで、ショットグラスで飲むもの」と思っていました。
おそらくよく見ていた映画などの影響だったのだろうと思いますが、少なくとも初心者のとる行動でないことは確かです。
では、初心者はどう飲むのがよいのでしょうか。
初めは割って飲む
ウイスキーのアルコール度数には幅がありますが、そのうちの多くが40~45度で造られています。
ビールのアルコール度数が5~10度程度と飲みやすく造られているのと比較すると、結構高いことが分かります。
40度のアルコールを初めて口に入れて、それを美味しいと感じるのは無理があるように思いますので、初めはアルコール度数を下げるために水割りやソーダ割りなど、飲みやすくして舌を慣らしていくことです。
あまり薄めすぎるとウイスキーの味も薄れてしまいますので、最初はウイスキー1に対して水3くらいから始めて、徐々に1対2に近づけていくのがおすすめです。
ちなみにウイスキー対水を1対3にした場合は、全体量が4倍になるのでアルコール分は4分の1、つまり40度のウイスキーなら10度になりますので、ぐっと飲みやすくなります。
とにかく、焦りは禁物です。
ゆくゆくはオンザロック、そしてストレートで飲むこともできるようになるための準備段階ですので、ゆっくりと舌を慣らしていきましょう。
おすすめしてもらって飲む
好みは千差万別と書きましたが、人の経験を参考にするのは決して悪いことではありません。
例えば友人に「この前飲んだウイスキーは美味しかった」と言われたとしたら、その銘柄と感想を聞いてみましょう。
仮に自分と友人が何か同じウイスキーを飲んだことがあるとしたら、それと比較してどうなのかを聞くことで、そのウイスキーの情報を仕入れることができるからです。
2人に共通のウイスキーがあり、それより美味しいという感想であれば、飲んでみるのはよいことです。
もしその結果、友人とは違う意見になったとしても、それは経験がひとつ増えたということですから、決して無駄ではないのです。
比べて飲む
ウイスキーのことを知り始めると、どこかのタイミングで「自分に合ったウイスキー」を探したくなることがあります。
しかし困ったことに世界中にはとんでもない数のウイスキーがありますので、いつになったらその1本に巡り会えるのかは分かりません。そこで、「AとBならどちらが好きか」を繰り返して、飲んだ中で一番自分に合うウイスキーを探すという方法をとります。
つまり、ウイスキーのトーナメントです。
贅沢を言うなら同時に2杯用意して飲み比べるのがいいのですが、金銭的にそれは難しいという場合は日を違えてもいいですし、もしウイスキー好きの友人が複数いれば、比較をする会を催してもいいかもしれません。とにかく味を比べてみるのは、とてもいい経験になりますので、おすすめです。
冒険して飲む
ウイスキーの知識を身につけ、水割りで飲むことにも慣れ、友人とウイスキーについて語ることができるのであれば、もう初心者は卒業してもいい頃です。
自動車教習所で仮免をとって路上教習に出るように、バーへ冒険に行ってみましょう。
バーはちょっと怖い、どうしたらいいか分からないという場合は、「オーセンティック」というキーワードでバーを探してみてください。
「オーセンティック」は「信頼できる」という意味で、安心して楽しむことができます。もちろん、一人で行くのが気が引けるのであれば、友人とでもかまいません。
バーは、はっきり言って異空間です。
日常ではない空間で酒と雰囲気を楽しむことができる、それがバーです。
ウイスキーのことをまだよく分からない、これとこれは飲んだことがあるけれど、他のウイスキーも飲んでみたい、そういった相談をしてみることです。きっと、ぴったりなウイスキーを選んでくれるはずです。
さいごに:ウイスキーは年齢と経験で飲む
ウイスキーを最初に飲んだ日から、もう数十年の歳月が経ちました。
何百種類ものウイスキーを飲む機会に恵まれ、友人にも多くのウイスキーをおすすめしてきたものですが、先日その友人たちと飲んだ際に、20年以上前に一緒に飲んだウイスキーの話が出てきました。
「あれは美味しかった」という友人の顔を見て、自分たちが重ねてきた年齢を改めて感じたものです。
水割りでしか飲めなかったウイスキーをいつしかオンザロックで楽しめるようになり、気づいたらストレートでばかり飲むようになり、昔より少し高いウイスキーにも手を出せるようになり、それだけの時間の中で、いったいどれだけのウイスキーを飲んできたのだろうと、少しだけあの頃を振り返ってみたくなりました。
きっともう、あの頃のような飲み方はせずに、ゆっくりと楽しみながら味わうことが気持ちがいいと、知ることができたのだと思います。
ウイスキーは、そういうものです。
今日のあなたの1杯が、いつかあなたの思い出の1杯になりますように。
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